「時雨西行」は歌舞伎俳優中村梅玉氏の発案により1998年第9回清里フィールドバレエコンサートにて初演されました。野外劇場の幻想的な空間に和と洋の舞踊が出会った瞬間であった。中村梅玉氏演ずる西行法師に川口ゆり子の江口の君、今村博明の心とそれを取り巻くコールドバレエ。藤間蘭黄氏による邦舞のパートの振付と今村・川口の洋舞パートの振付は見事な一体感を見せた。オカリナの音色に導かれ不思議な調和が舞台と客席をつないだのである。大変好評を博し、翌年の第10回清里フィールドバレエコンサートに再登場し、2000年のバレエシャンブルウエスト海外公演のレパートリーにも選ばれた。海外公演は振付師藤間蘭黄氏自らの出演でボリジョイ劇場、エストニア国立劇場で上演。高い評価を得た。
演出:中村梅玉
振付:今村博明・川口ゆり子(バレエ) 藤間蘭黄(邦舞)
「時雨西行」Story
若くして出家し諸国を行脚する西行法師はある年の時雨の月、江口の里(淀川の下流)に降り立った。笹の精に導かれ折からの雨を避け、丈が生い茂る1件の家に佇む。そこは遊女が住む家であった。一夜の宿を乞う西行であったが、「女だけが住む家。ましては遊女が住むところです」と新造に断られる。しかし遅れて現れた宿の主江口の君は、出家した西行の心情を察し「このようなところでも…」と宿に招き入れた。もてなしを受けた西行はやがて江口の君に問われるままに武将であったころの昔話を聞かせる。江口の君も身の上話を語った。夜が更けるまで二人の話は続き江口の君の美しさとなまめかしさは西行の心に不思議な襞を呼び起こすのであった。西行が目を閉じ心を鎮めると、不思議にも遊女の姿は気高い普賢菩薩と変じ、心に写った普賢菩薩は、悟りを説き仏の道へと導くのであった。ふたたび目を開ければ目の前にいるのは遊女なのである。
夜が明け、江口の里での不思議な一字を過ごした西行は晴れ晴れとした気持ちになり、普賢菩薩に見送られ、新たな諸国行脚へ旅立っていくのであった。
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